『その1』牧場のシゴト
東村にある「みちくさ牧場」で馬と一緒に仕事をしている。というか、馬が仕事をしていて、私はその手伝いのようなものだなと思う。馬が元気でなければ始まらない。馬が心地よく仕事できるようにすることが一番大事な仕事。そのために馬の気持ちをなるべく理解してあげたいと思うし、私の想いも馬に伝わるようになりたいと思う日々。朝のエサやりから始まり、厩舎掃除、ブラッシングなど馬の手入れをして馬の運動とトレーニング、乗馬レッスン、引き馬、馬具の手入れ、削蹄、ボロ拾い。それからそれから…。どこまでも続くよ牧場仕事なのである。
馬には人を元気にさせる力がある。馬に乗ることで、体の調子が良くなったり、ぼやーっと眺めているだけで気持ちが和らいだり、スポーツとしての乗馬を楽しむこともできる。日常的な関わりからは、生きる力や豊かな感性が育まれる。なにより、馬から教わり学ぶことがたくさんある。私には到底できないことだから、やっぱり馬はすごいと思う。しかも誰だって乗ることができるし、馬の上ではみんな平等。偉い人だって誰だって関係ない。この間は、80過ぎのおばあちゃんが軽々ひょいっと乗っていった。「昔、家に馬がいてね〜。馬で学校かよったさ〜。」と、乗り終わっても馬をナデナデ。また馬と会えて嬉しそうに話す。こっちまで嬉しくなる。ほんと、少し前(40年くらいかな?)までは、馬との暮らしがたくさんあって、馬が身近な存在だったことが感じられる。今は、馬との距離が遠くなってしまっている…。また縮めていきたい。
と、まあいろいろ想いあってこの仕事をしているわけです。(ただ馬が好きなだけかも…)そこで重要なのは馬の存在。馬と初めて接する人には安心して、触ったり乗ったり出来る馬。身体に不自由をかかえている人には、伸びやかな動きをバランス良く提供する馬、スポーツとして楽しむ人には元気で、乗っている人の気持ちをすぐに理解出来る馬、競技を目指す人には高い運動能力を持つ馬。それぞれのニーズにあった馬を育てることがとっても重要。それさえ、しっかり出来ていれば、後は馬がすべてやってくれる、なんて考えていますが、その馬育てがなかなかうまくいかず、悪戦苦闘の毎日です。人がそれぞれ職業を選ぶのと同じように、馬にもその馬にあった生き方が出来るような関わりが出来るようにならなくてはと、馬に乗るたびに思うのであります・・・。
『その2』ホースセラピー
みちくさ牧場では、ホースセラピーをおこなっている。
ホースセラピーと言うと、その範囲は広くて、馬を見たり触ったり、乗ったりすることはもちろん、時には世話をすることから、心と身体が元気になっていく活動を表す。心と身体が元気になるという事は、心の病気や身体の病気など、いろいろな困難に効果があるということで、本当にその範囲は広い。私がいつも元気でいられるのも、この世話のかかる馬たちのお陰なのだなぁと思ったりする・・・。
その話しはさておき、今回はその中の、障害者乗馬について話していきたいと思う。
脳にしょうがいのあるK君(4歳)は、毎週お母さん姉弟とともにやってくる。初めて馬と出会ったのは今から2年前。体の硬直が強いK君が、初めて馬にうつ伏せで乗った時、みるみるうちに体がほぐれていく様子を目の当たりにしたK君のお母さんが感動して以来の付き合いだ。最近は、いつも乗っているどさんこのサラともコミュニケーションがとれ始めた様子で、たてがみを引っ張ったり、「歩くっ!」と言葉を使うことができるようになってきたように感じる。今はサイドウォーカー(乗り手の横についてサポートする役)がついて補助をしているが、一人で乗れる日も近いだろうと思っている。目も見えない、歩くことも話すことも難しいK君だが、馬に乗っていると、そんなことはあまり関係なくなってしまう。馬の上に乗ったら、まず体をぐっと起こして、真ん中にしっかりと座って前を見る。
「身体の力をぬいて・・・。」私たちが乗った人にかける言葉は誰にでも同じ、障害があるとかないとかは関係ない。大切なことだなぁと思う。
馬に乗ることから来る良いことは沢山ある。例えば、馬に乗って歩く(常歩・なみあし)と、乗っている人間は、美しく歩いているときと同じ筋肉が使われている(疑似歩行)。人間にとって歩くことはとても大切な事、馬に乗れば歩くことが困難な人でも、美しく歩くことが出来る。そうすると、歩くために必要な筋肉を鍛えることができたり、骨盤が正しい位置に戻ったり、筋肉もバランスよくついて、身体の歪みもとれたりする。体への効果はもちろん大切だけれど、やっぱり楽しいと感じてもらうことが、なによりの力になっていくんだろうなぁ。とK君の笑顔を見るたびに思う。
馬とのコミュニケーションは本当に楽しいし、心がどんどん育つ。私は、馬との関わりを楽しんでもらえるように、そして、馬から伝わる揺れ、温もり、言葉では言い表せないたくさんの刺激が、なるべく身体に真っ直ぐ伝わるように、馬と人との仲介役になれればと思う。
『その3』進め!みちくさクラブ
今回は、元気な子どもたちが大活躍している、「みちくさクラブ」を紹介します。
「みちくさクラブ」は“牧場の子ども園”をイメージしている。「子どもたちを育てるには牧場が一番!」なんて思っていて、馬との関わりを日常的に提供することを目標にしている。生き物との日常的な関わりは「命」との関わりだ。「命と寄り添う」ことで、生きる力や豊かな感性を育むことができると思う。こう書くと、なんだかすごいことを言っているような感じがするけれど、わたしのする仕事はというと、ケガや事故がなく、体いっぱい心いっぱい使ってのびのびと過ごせるようにすること、子どもたちの声をなるべく聞いて、彼らが自分の思いを形にしていく手伝いをすることぐらい。大事なことは馬がしてくれる。
子どもたちが、それぞれの個性が表れた足取りで牧場へやって来る。その時、
「みんな集まれ! 静かに!! 今日は○○をします。」
みたいなことはしない。
「この時間は馬のエサだな。エサあげよう」って自分でなんとなく気づいて、行動する。大人はそそくさとお手伝い。何か言わなくても、馬のためならできたりする。そんな子どもたちの“育ち”をゆっくりと待ちたいと思う。
もちろん、仕事ばかりじゃなくて、仕事の合間に遊びもある(遊びの合間に仕事??)。実は仕事を覚えることと、伸びやかな遊びをすることはつながっていて、馬に何が必要かわかってくると、自然に豊かに遊べるようになってくる。馬って大きいし、噛まないの? 蹴らないの? と不安もいっぱいで、最初は近寄るのも怖い。でも、仕事の中でだんだんと関わり方や距離を覚えて、馬がいつでもそばにいることを感じながら遊べるようになってくるし、※乗ることから「仕事もきちんとやらないと」と思う心も芽生えてくる。
先日、蹄洗場(ていせんば)につないでいた馬がボロ(糞)をした。すると、遊んでいたと思っていた子がボロ拾い道
具を持ってきて、ちょっと心配そうに馬の様子をうかがいながら、小さな体で大きなチリトリ片手にかたづけ始めている。とってもえらい! 馬の代わりにありがとう。わたしからもありがとう。こんなふうに、たくさんの仕事をちょっとずつ覚えていく。
クラブ担当馬「たまゆき」(4歳オスの道産子、たまにヤギに間違われる)のブラッシングも日常作業のひとつ。乗る日も乗らない日もゴシゴシきれいに手入れをする。夕飼い(夕方のエサ)の準備もする。馬は生き物だ。誰がケンカしようと、嫌なことや楽しいことが起きようと関係なく馬はお腹を減らすしボロもする。誰かが何とかしないとどうにもならない。子どもたちは馬から間違いなく必要とされている。
人と同じ言葉を話さない馬のことを理解しようとする心は、これからの人との関わりにもきっと役立ってくると思うし、大切にしてきたいと思う。元気のない子も、元気のありあまっている子もぜひぜひ遊びにきてほしい。嫌なことがあっても、草をさしだせば、いつでも食べてくれる頼もしい仲間と一緒に、今日も「みちくさクラブ」は進んでいく。
『その4』人馬一体を目指して
みちくさ牧場シゴト。最後は、スポーツとしての乗馬楽しみ方について書きたいと思います。
馬に乗ることそのものは、難しいことではないのですが、上手に馬を乗りこなせるようになるまでには、長い道のりが必要です。一人で馬をコントロールして駈歩(かけあし)ができるようになるまでには100鞍(1回45分乗ることを一鞍と言います)、1000鞍乗って一人前と言われるくらいです。目指すは人馬一体!こうやって、数字に表すと、気が遠くなるかも知れませんが、積み重ねることで、必ず上達するのも乗馬スポーツの良いところだと思います。
わたしの仕事の一つに、お客さんへのレッスンがあります。わたしが受け持っているのは、馬術と呼ばれる乗馬スポーツの基本技術で、まず始めは乗馬姿勢を作ることから始まります。姿勢が整ってくるとバランス感覚が養われ、力を使わずに馬に乗ることができるようになってきます。そこから少しずつ馬術的な細かな技術を積み重ねていくことになります。
馬に乗る技術とは、馬とのコミュニケーションを深める技術です。人の意思を馬に伝え、また馬の気持ちを理解し、一緒に目標に向かった運動をすることはとても楽しいことだと思います。
先日は、県民大会もおこなわれ、子供から大人までの会員さんを連れて、出場してきました。初めて参加する馬や人たちも多く、少し緊張気味の様子でしたが、いつも乗っている馬に乗ると少し安心するようで、こちらがどんな言葉をかけるよりも、馬は心強い味方だなぁと思います。そして、試合開始。練習時間は長いですが、本番はほんの一瞬。3分くらいのものです。
日頃から練習を重ねている会員の皆さんが晴れの舞台で十分に力を発揮することができて嬉しそうな姿に、こちらも嬉しくなります。そして、またそれを励みに練習は続いていくのです。
この乗馬技術はとめどなく探求できる技術大変奥深いものです。障害物を飛び越える「ショージャンプ」や美しい動きを競う「ドレッサージュ」などは、“芸術”と呼ばれるほどの高い技術を必要とし、何歳になっても、とめどなく探求し続けることができます。上達には長い時間を必要とする道のりのスポーツですが、沖縄でもどんどん選手と馬を育成し、乗馬スポーツが多くの人々の楽しみとなるように、今日もわたしは働きます。
※上記は琉球新報社、週間レキオ「ワカモノシゴト」で掲載されたものです。 |